お城通信第23号 | 調査経過報告会リモートで行いました
【お城通信vol.23】調査経過報告会リモートで行いました
去る2月13日に、創立9年目の研究報告会をZOOMにて開催しました。50名の方々にご参加いただき、ありがとうございます。初めに「小田原城天守の構造を考える」と題して、小田原城天守調査研究室専任研究員の宮本さんからご報告がありました。その後、工学院大学理事長の後藤先生、当研究室の室長でもある高橋さんと宮本さんを含めた3人でシンポジウムを開催、充実した会となりました。
調査経過報告

前半の報告では、昨年実施された「大久保神社模型」や「東大模型」の実測調査の結果について説明がありました。「大久保神社模型」は小屋組、「東大模型」には軸組にそれぞれに特徴があり、大変興味深い内容でした。また、「小田原城三重天守引図」と呼ばれる建地割図(断面図と立面図を組み合わせた図)に関しては、そこに描かれた細かな表現について、もうひとつの模型である「東博模型」との類似点や今回の調査で新しくわかったことも含めて報告されました。そこに描かれた情報量の多さには驚かされました。

絵図史料の調査も欠かせません。昨年の報告会では「文久図」に描かれた天守と「東大模型」の類似点が報告されましたが、未だはっきりしたことはわかっていません。他に、今の天守閣の設計にも参考とされた「小田原城天守図 田中乙本」、そして1830-1843年頃に作成された「小田原城并見附図」御本丸図などが現存します。残念ながら、それらの絵図史料と模型との関連性などはきちんと研究されていません。当研究室では今後、それらの調査研究も継続していき、様々な疑問の解明に努めていきたいと思います。

「東大模型」の軸組は、実測調査の結果から、身舎部分(メインフレーム)に使用された、3階まで延びる通柱の使用方法などに大きな特徴があり、シンポジウムでは後藤先生から、天守の構造の変遷を考えた時に非常に価値が高いというご指摘がありました。また「廻り番付」という、関東地方では中世から使用されている形式の方法が採用されているとのことで、とても精度の高い計画性が見られるとのことでした。さらに、実は「引図」と「東大模型」の各階の高さなどはほとんど同じで、「大久保神社模型」が低いということもわかったようです。今後も更なる調査研究に期待したいです。
これまでに「小田原城三重天守引図」、「大久保神社模型」、「東大模型」の実測調査とその図化を行っていますが、今年からもう一つの「東博模型」の調査に本格的に入っていく予定です。実測調査を行い、先の3つの史資料との比較研究を行い、復元案の策定に繋げていきたいと考えています。
小田原市第6次総合計画に「天守木造化」が正式に
小田原市の総合計画は、市全体の事業計画について数年に一度策定しているものですが、その第6次総合計画の中に「天守木造化」という文言が初めて正式に記述されました。NPO設立から10年ほどの時を要しましたが、公共の事業化へ向けてこの課題が位置づけられたことは、これまでに活動を支え合って戴いた会員とご協力者各位のおかげと感謝申し上げます。しかしながら、具現化へ向かうためには、多くのことを地道に積み上げていく必要があり、これからが本番です。
木造天守の復元設計や建設資金調達に入る前に、今から取りかかるべきことが沢山控えています。本号でお伝えしているように、模型や絵図の詳細な調査研究を積み重ねて学術的な成果をまとめること、大径材の調達、伝統構法の技術継承の仕組みづくり、現在の天守閣内にある史資料の新たな収蔵施設の問題、木造天守建設中の観光課題への対応など、解決しなければならない問題は多岐に渡ります。小田原市は、木造復元の必要十分条件を揃えるために、有識者を招聘した公式な検討組織を立ち上げることを決定しました。当会からも数名のメンバーが参加して、実現に向けた具体的な議論を積極的に行っていきます。
ポリシー冊子「小田原城天守から未来を創る~天守木造復元のおもい~」を制作!

当会のおもいが詰まった冊子。より多くの方々に手に取っていただきたいと考えておりますので、ご希望の方には当会より郵送いたします。お問い合わせフォームよりご連絡くださいませ。