お城通信第26号 | お城の石垣の特徴と崩壊について
【お城通信vol.26】お城の石垣の特徴と崩壊について
お城通信前号では、「お城と石垣」として城郭石垣の変遷、技法(積み方)について記載いたしました。今号では「お城の石垣の特徴と崩壊」についてお話ししたいと思います。㈱大崎総合研究所 山内裕之氏 講話より
小田原城天守に関する研究論文が学術誌に掲載
当会の研究員による2本の論文が、日本建築学会の学術誌に2月と4月にそれぞれ掲載されます。前者は、天守閣最上階に展示してある「東大模型」に関して、その架構(木組み)がこれまでに知られていなかった構造を持つことを明らかにしたものです。後者は、天守閣1階の「大久保神社模型」の背面に複製が展示してある「小田原城三重天守引図」に関して、その制作目的が、従来言われていた「設計図」ではなく、年代は不明だが、確実に存在していた天守を実測した「現況図」である可能性が高いことを指摘したものです。小さな一歩ですが、研究が確実に進捗しています。
お城の石垣の特徴と崩壊について
お城通信前号では、「お城と石垣」として城郭石垣の変遷、技法(積み方)について記載いたしました。今号では「お城の石垣の特徴と崩壊」についてお話ししたいと思います。㈱大崎総合研究所 山内裕之氏 講話より

城郭等で積まれた石垣の構造上の最大の特徴は「空積み(からづみ)」であることです。空積みは、古くから行われている伝統技法にです。石と石との間に「飼石(かいいし)」と言われる小さな石を噛まし石の調整と固定を行います。石材間に隙間があるため排水能力に優れており土砂崩壊の要因の一つである水圧が石垣に作用しない構造物です。また石材の耐久性は百年単位であり永久構造物となります。また、石積には高度な施工技術が必要です。
これに対する積み方に「練積み(ねりづみ)」があります。関東大震災以降はこの練積みが一般的で、街中で良く見られる石積のほとんどがこの工法です。練積みは石と石との間にコンクリートを打設し石積全体を固める工法です。コンクリートは水を通さないため水抜パイプを設置し排水させますが、古くなると水抜パイプが詰まり石積に水圧が作用する場合があります。また、コンクリートの耐久性は100年未満であり古くなった石積は壊し新たに積み直すことが必要になります。

次に石垣の崩壊についてお話しします。その要因として地震があります。熊本地震で熊本城の石垣が崩れ、大きな被害があったことは記憶している方も多いと思います。空積み石垣は石材間がフリーであるため各々の石材が動くことで地震発生時のエネルギーを吸収する耐震構造物でもあります。しかし石材が動くことで石垣に「はらみ」状の変形が発生し安定性が損なわれた時点で石垣の崩壊が発生します。一方、石垣が普請され400年以上経過し巨大地震を経験した後も頑強な状態を維持している石垣が多くあることも事実であり石垣に耐震性能があることを歴史が証明しています。

次に雨の影響についてお話しします。空積み石垣は水圧が作用しないという優れた機能があることをお話ししましたが、その機能は石材の背面にある小さな石で構成された「裏込め」が重要です。裏込めには隙間があり高い排水機能を持ちますが、石垣上の建物の撤去や時間の経過とともに、その隙間に土砂が混入することで排水機能が低下し水が溜まり、石垣に水圧が作用する現象が起こる場合があります。結果、地震の場合と同様に石垣に「はらみ」状の変形が発生し豪雨等で安定性が損なわれた時点で石垣の崩壊が発生します。

小田原城には、本丸南面に関東大震災により崩壊した石垣が見られます。通常、崩壊した石垣は積直し、あるいは石材が転用されて無くなっている場合が多いのですが、ここでは崩壊したままの姿が遺されています。崩壊要因は地震と豪雨との違いはありますが、右上の写真を見ると同じような地すべり形状で崩壊しているのが分かると思います。

石垣は崩壊する前のシグナルとして「はらみ」状の変形が発生します。従って、その前兆をとらえ崩壊前に解体・積直しを行い、石垣を元の形状に修復する必要があります。建物のメンテナンスと同様に個々の石垣の弱点を改善しメンテナンスすることで、長期に渡り石垣の美しさと機能を維持することができます。また、修復に際しては、石垣の「文化財としての価値」を維持するために、石垣の状況を調査・記録し十分な検討を行うことも重要です。
前述の練積み石積が古くなり解体する場合は、その石材とコンクリート等の大部分は廃棄することになります。一方、空積みの石垣の場合は、石材、裏込め材の大部分の再利用が可能であり「SDGs」に貢献した構造物でもあります。次回は石垣の修復技術に着目してお話ししたいと思います。