お城通信第27号 | 小田原城天守に関する研究論文が学術誌に掲載
【お城通信vol.27】小田原城天守に関する研究論文が学術誌に掲載
天守模型の3つの内、大久保神社模型と東大模型、そして引図について、当会の高橋・宮本両研究員によって精緻な計測と観察が行なわれ、その研究成果を宮本研究員が論文にまとめ、査読を経て学会誌に掲載されました。
もう一つの神奈川県立歴史博物館に展示されている東博模型については、詳細な調査を早期に行い、江戸時代の天守の姿を明らかにする計画を着実に進めています。
お城の石垣の修復技術について

(現在は解体修復されています。)
お城通信前号では、「お城の石垣の特徴と崩壊」についてお話ししました。今号では「石垣の修復技術」について専門的になりますがお話ししたいと思います。(大崎総合研究所 山内裕之 氏)

一方、石垣の安全性の確認、検討を行うための手法では最先端技術を活用することができます。特に画像計測解析技術はここ数年で目覚ましく発達し、石垣の計測と修復に利用されつつあります。次に、石垣修復計画の各ステップでどのような技術が採用されているかを紹介します。
①ステップ《石垣状況の記録と把握》

文化財である石垣の修復に際しては修復前の形状を記録し変形状況を的確に把握する必要があります。その際使用されるのが3次元測量です。3次元測量にはレーザ計測と写真計測があり、各々の特性を考慮し双方を実施します。計測データを分析し石垣の変形状況を把握します。
②ステップ《石垣の修復形状の検討》

3次元計測で得られたデータを用い石垣を3次元モデル化し、修復形状(普請当時の形状)を3次元シミュレーションすることができます。この手法を用いることにより、画面上で石垣修復形状を《目視で確認》することができるため、有識者、石工(職人)の意見や技術を計画に反映させることができるようになりました。
③ステップ《石垣の修復構造の検討》

最先端の解析プログラムで構造解析を行うことで、石垣がどの程度の地震まで大丈夫か検討します。必要に応じ在来工法を基本に石垣の構造改善を行い、繰返し検討することで石垣の修復構造を決定します。
④ステップ《石垣組立工事への展開》
②ステップの3次シミュレーションより得られた位置データを用い、各々の築石が所定の位置に据え付けられているかを管理し石垣の組立工事を進めます。
在来工法を基本に石垣の弱点を改善し修復検討を行った結果、どうしても石垣の安全性が確保できない場合は、有識者の意見を踏まえ現代工法の採用を慎重に検討します。この場合は、在来工法である【空積み】という石垣の基本構造を継承し、現代工法を選定する必要があります。現代工法採用の事例としては、石垣背面の地山にアースアンカーを打設する方法、あるいは石垣の裏込め層にジオテキスタイルと言われる網状の補強材を入れる方法があります。いずれも石垣に作用する土の圧力を軽減する方法で、石垣が【空積み】であることを考慮した工法となります。

現代工法採用の事例としては、石垣背面の地山にアースアンカーを打設する方法、あるいは石垣の裏込め層にジオテキスタイルと言われる網状の補強材を入れる方法があります。いずれも石垣に作用する土の圧力を軽減する方法で、石垣が【空積み】であることを考慮した工法となります。

これまでお話ししたように、文化財である石垣を維持するためには《文化財としての価値》を十分に考慮しつつ石垣の状況を把握し必要に応じ修復を行う必要があります。戦国時代後期以降に全国で普請された石垣は、普請直後から地震、豪雨等の影響で変形あるいは崩壊し、その都度、修復され現在に引き継がれました。今は文化財となり、城郭の役割は変わりましたが、我々には石垣を適切に修復し維持することで次世代に引き継ぐ責任があると思います。
山内裕之 ㈱大崎総合研究所