お城通信第28号 |     夜の天守閣ツアー、初の試み

【お城通信vol.28】夜の天守閣ツアー、初の試み

去る5月27日(土)、天守閣閉館後に、会員の皆様限定で「夜の天守閣ツアー」を実施しました。宮本研究員らが日本建築学会に提出した論文について、そのテーマとなった「東大模型」(天守閣最上階に展示)と「小田原城三重天守引図」(天守閣1階に複製展示)を間近にしながら解説するというものでした。「東大模型」は初重から三重までの通柱、初重-二重、二重-三重に使い分けられた「互入式通柱構法」とのハイブリッドな技法に構造上の大きな特徴があることがわかりました。「小田原城三重天守引図」は様々な技法の描写や文字による書き込みから、これまで言われていたような「設計図」ではなく、実際に建っていた天守を実測した「現況図」ではないかと、という結論に至ったことが非常に大きな成果です。

配付資料は論文の概要版や過去に当NPOで行った研究報告会のパワポ資料です。充実しています

参加者のみなさんが熱心に解説をお聞きになっている姿が印象的で、建築の専門的な話が中心にも関わらず、ご質問も多数受けました。両史料とも大変貴重なのですが、「宝永再建天守」に直接的に結びつくかどうか、現段階では断定できません。しかし論文が学会の査読を通ったことにより、模型を含めた既知の史料の価値を、様々な角度から改めて見直していく作業が必須となります。今後も、城絵図などの絵画史料や文献資料などの調査を含めて「宝永度天守」の実像に迫っていきたいと思います。最後に、本イベントにご協力戴きました小田原市の関係各署に謝意を表します。

第11期 理事会・総会を終えて

昨年度は小田原城天守等復元的整備検討会議が市によって公式に立ち上り、天守木造へ確実な一歩を踏み出しました。併せて当会研究室の地道な調査研究の成果が日本建築学会に査読論文として認められました。査読論文となる条件で最も重要なのは新規性が認められることです。既に調査研究が行われた小田原城天守で新規性を掘り出すことはかなり難しいと言われてきました。そんな中で査読論文が通ったということは、大きな発見があったわけです。論文をまとめた宮本研究員と高橋室長には大きな賛辞を贈ります。文化庁に現状変更の許認可を取るにはまだ道のりは長いけれど、当会と市文化財課と協働して慎重にかつ着実に調査を進めていくのみです。次の天守をどうするかは必ずやってくる課題です。当会として天守木造復元の願いを高らかに謳いたく皆さまの今後のますますのご支援をお願いするところです。

第7回 整備検討会議で研究成果のプレゼン

研究進捗の報告として宮本研究員の発表がありました。最近わかった事実として、幕府作事方大工頭を務めた鈴木修理の日記に興味深い記述があったようです。元禄地震により小田原城天守が倒壊焼失した後、大久保忠朝が鈴木修理にあてて「小田原城の天守は三重です。江戸城の富士見三重櫓、台所前三重櫓が格好いいから、その木形(模型)を作って欲しい、寸法の書付もあれば…」という趣旨の願いを出し、それに対して鈴木修理は台所前三重櫓の木型を作らせていたようなのです。つまり、宝永度の天守再建の際に、台所前三重櫓(現存せず)の模型が作成・参照された可能性があるということがわかりました。

「御本丸御台所前三重御櫓妻建地割」(編集・転載)

上図は、万延度に再建されたとされる台所前三重櫓の建地割図(東京都立中央図書館蔵)ですが、小田原城天守模型等の史料とは建物の大きさが全く合いません。大久保忠朝が「格好いい」とした当時のものをそのまま踏襲して再建したかどうかも不明ですので、これをもって判断することはできません。しかし、通柱の技法には「東大模型」に共通する特徴が見られることを付記したいと思います。

6月市議会で神戸秀典議員が木造化の質問

6月定例市議会の一般質問で天守木造の関する市の考え方を問う神戸秀典市会議員

市議会の一般質問において神戸秀典市会議員が、市の文化行政に関する質問の中で、天守木造について市としての方針を問いました。それに対して、答弁に立った市長からは、当NPOの名前も具体的に述べられ、木造復原の可能性を研究検証する整備検討会議が動いていると明言されました。市議会という公式な場面で質疑応答がなされたことを、一般市民の方々にも知っていただき、天守木造プロジェクトが着実に進んでいることを理解していただけるよう当会としても努めていきます。/