小田原城天守を木造で建て替える方法(1)
現在建っている鉄筋の小田原城天守を木造で建て替えるにはどうすればいいのか、そして当NPOは何をしているのかを数回にわけてご説明いたします。
はじめに
「小田原城の天守閣を木造にできたらいいよね」「テレビが取材に来ても外観しか映さないんだよね」「中はお城っていうより博物館だからね」「でも外観はかっこいいよね」「中も太い木組みが見えるといいよね」「昔の巨大な木造建築の太い木組みは迫力あるよね」
そんな会話があちこちである中、実際に「天守閣を木造で建て直そう」と動き出した人たちがいます。当NPOの設立メンバーです。ここでは、当NPOの活動と活動の中で学んでいったことを書いていきます。
手順
小田原城の天守を木造にしようと思ったら、以下の手順になるのは容易に想像できると思います。
- 小田原城は国指定の史跡なので、国の許可を得る
- 江戸時代の城と同じように建てられる大工さんを探す
- 見積もりを取る
- お金を集める
- 工事開始
では具体的にどうすればいいのでしょうか。天守木造で建て直そうとしている人は普通の人たちで、政治家でも行政関係者でもないしお城の研究者でもありません。疑問が次々浮かんできます。
「どうやって国の許可を得るの?」「お城を建てられる大工さんってどこにいるの?」「工事資金をどのくらい集めればいいの?」
国の許可を得る
国指定の史跡ってことは文化財保護法がどうしたこうしただから、文科省に許可を取ればいいのか。じゃあ霞ヶ関に行ってくるか。
無理です。手ぶらで行っても許可が出るわけがありません。何を持っていけばいいのか。それを調べるところから小田原城天守木造復元プロジェクトが始まりました。
小田原城は国指定の史跡ですが、天守は文化財ではないのです。文化財だったら壊して建て直すなんてできません。小田原城の天守は復興天守と呼ばれ、宝永年間の天守をモデルにした展示物なのです。
現状の天守は1960年当時の学術研究を元に再現されました。史跡に建ってることでもわかるように、現在の天守再現には、しっかりした根拠がありました。しかし、ごく最近の木造模型の調査では新たな発見もあり、最終的な木造復元の際にはそれらのことが反映されるでしょう。
また、復元天守の竣工当時とは建築物をとりまく環境が変わり、2015年から2016年にかけて耐震補強工事が行なわれました。
「補強工事のタイミングで木造にすればよかったんじゃないの?」
残念ながら、今回のタイミングでは天守を木造で建てられるまでの学術的な根拠が足りませんでした。それでも市のサイトに公開されている「小田原城天守閣耐震改修に関する議事録」を見ると、将来の天守木造を考慮した耐震改修をしていることがわかります。
この先東南海地震が発生すると予測されています。そのときに現在の鉄筋コンクリート(RC)の天守も大きな損傷を受けるかもしれません。それを再建するには歴史的な復元根拠のある形にしなくてはなりません。そのためにも今から再建を考えるというのは大いに意義のあることなのです。
復元する小田原城天守はどんな形なのか
「どんな形のものを建てるの?」「今の形で建て直せばいいんじゃないの?」史跡である小田原城址に建てるのですから、めったなものは建てられません。建てる天守には学術的な裏付けが必要です。
小田原城天守は2度の大地震によって倒壊し、江戸時代中期に再建された3代目の天守が明治時代に解体されるまで残っていました。さて、ではこれから木造天守を復元する際には、どの時代の天守を再建したらいいのでしょうか。
「石垣はそのままでいいんでしょ?」
ところが、石垣は関東大震災でほぼ全壊。
天守は明治に取り壊されて、ほぼ江戸時代の姿はなくなりました。
ここまでで、天守の形は複数あったこと、石垣が崩壊したことがわかりました。では何を根拠に建てましょう。
歴史的建築物の復元には、以下の3つが必要だと言われています。
- 意匠(建物の姿)の分かる、外観、内装等の資料(写真等)が残っていること
- 架構の分かる、天守の絵図、引き図、設計図等の図面が残っていること
- 架構を証明する礎石が残っていること
これを小田原城にあてはめると、写真は明治時代の解体時のものが1枚だけ見つかっています。詳細精密な図面はありません。石垣は関東大震災で崩壊しましたし、現在の復元天守閣の基礎工事の時にも何らかの損傷を受けているかもしれません。
このままでは文化庁の許可など無理です。
以上のことから小田原城の天守木造復元は不可能であることがわかりました。
では終わりません。
他の例を調べてみると、外観の写真や図面がなくても復元された史跡があります。長崎県の出島、栃木県の足利学校等です。写真が発明される前の史跡に外観の写真を求めるのは無理ですし。とはいえ、写真が発明されて以降の史跡に関してはそのへんは厳しくなります。
今回はここまでです。
続き... 【小田原城天守を木造で建て替える方法(2)】
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